AI時代の対人支援において、人にしかできないことって何?――Erica Dhawan『デジタルボディランゲージ』から考える「信頼」と存在の役割

先日の雑談会で話題に昇ったのは、AIを対人支援に活用していく時代において、「人にしかできないことは何か」という問いでした。

知識の提供、情報の整理、初期的な傾聴、論点の見える化、さらには一定水準の助言や対話の補助まで、AIが担える領域は急速に広がっています。だからこそ、人間の専門家の価値は、単に「AIより高度な答えを出すこと」にあるのではなく、もっと別の次元にあるのではないかと思わされます。

そのとき大きな示唆を与えてくれるのが、Erica DhawanDigital Body Languageです。本書は、メールやチャット、オンライン会議といったデジタル環境において、対面では自然に伝わっていた非言語的な情報――表情、間、声色、まなざし、うなずき――が失われたのではなく、別の形で移し替えられていることを明らかにします。

返信の速さ、文面の丁寧さ、言葉の選び方、改行、確認の一言、フォローの有無。そうした一見些細に見えるものが、実は相手に対する敬意や関心、誠実さの表現となり、信頼や不信の形成に深く関わっているのだ、というのが本書の中核的なメッセージです。

この視点は、対人支援におけるAI活用を考えるうえでも非常に重要です。AIは、ある程度まで適切に応答し、整理し、寄り添うように見える対話を生成できます。しかし、その応答がどれほど巧みであっても、最終的にクライエントが「この人に話してよかった」「この人は私を引き受けてくれている」と感じる次元には、なお人間固有の課題が残ります。

それは、単なる情報処理能力ではなく、「その人がそこにいる」という存在の手触りです。

対人支援における信頼は、正しさだけでは生まれません。的確な助言、洗練された問い、整理された見立てだけで、人は必ずしも心を開くわけではないからです。むしろ、相手の前に一人の人間として現れ、応答の背後に「あなたに関わろうとする意志」が感じられること、その人らしい責任の取り方、その人ならではの間合い、その人自身の誠実さがにじみ出ることによって、はじめて信頼は立ち上がります。

言い換えれば、人にしかできないこととは、究極的には 「その人であることを通して関わること」 なのだと思います。

『デジタルボディランゲージ』は、こうした信頼の問題を、デジタルコミュニケーションの文法から捉え直した本です。そしてそれは、AI時代の対人支援にもそのまま接続します。AIが支援の一部を担えるようになればなるほど、人間の専門家には、知識や技法以上に、「誰が、どのように、そこにいるのか」が問われるようになります。

AIは支援を補助できても、存在そのものによって信頼を引き受けることはできません。だからこそ、人間の支援者に残される本質的な仕事は、AIに勝つことではなく、AIを活かしながらも、自らの存在を通して信頼を築くことにあるのではないでしょうか。

その意味で、本書は単なるデジタル時代のコミュニケーション指南書ではありません。むしろ、非対面・非身体化が進む時代において、それでもなお信頼はどのように成立するのか、そしてその中で人間にしか担えない役割とは何かを考えさせる一冊です。

AIを対人支援に導入しようとする人、あるいはすでに活用しながらも「人の役割とは何か」を問い直したい支援者にとって、本書はきわめて示唆に富む本として推薦できます。

― この記事は 30 回読まれています。―

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です