
私たちは普段、自分の人生を「自分のもの」として考えています。
何を学び、どんな仕事に就き、どのように生きていくのか。人生にはさまざまな選択があり、その一つひとつを自分で決めているように感じます。
けれども、少し振り返ってみてください。今の自分の考え方や価値観は、本当に自分一人でつくり上げたものでしょうか。
家族や友人との出会い、学校や職場での経験、誰かの何気ない一言。私たちは、数え切れないほどの人や出来事に影響を受けながら、今の自分になっています。そして同時に、私たち自身もまた、誰かの人生に影響を与えています。
自分らしさを大切にしながら、誰かとつながり、互いに影響を与え合い、ときには考え方や生き方そのものを変えていく。そうした人間の営みを考えると、私たちの人生は、目に見える出来事だけでは捉えきれない、もっと大きなつながりの中にあることに気づかされます。
インテグラルキャリア研究所(ICI)では、こうした人間と社会の関係を、さまざまな角度から探究しています。
その中で大切にしているのが、物事を個別に捉えるだけではなく、それぞれの違いを理解しながら、全体としてのつながりを見つめるという考え方です。
では、そのような世界を一枚の絵として表現すると、どのような姿になるのでしょうか。
そうした思いから生まれたのが、この絵(曼荼羅)です。
中央にはコンパスがあり、左右には異なる色彩の世界が広がっています。上下には渦巻きが連なり、無数の光や曲線が複雑に交差しています。
一見すると、抽象的で不思議な絵に見えるかもしれません。しかし、そこには私たちが人生を考えるうえで大切にしたい、いくつかの視点が込められています。
心の中の世界と、外に広がる世界
まず、絵の左右の違いに注目してみましょう。
左側の青い世界は、私たちの内面の世界を象徴しています。気持ち、願い、迷い、大切にしている価値観。人には、外からは見えない豊かな心の世界があります。
一方、右側の赤い世界には、たくさんの人々が描かれています。これは、行動や仕事、人との関わり、社会の仕組みなど、外から見える世界を象徴しています。
例えば、同じ仕事をしていても、ある人はやりがいを感じ、別の人は苦しさを感じているかもしれません。外から見える姿が同じでも、その人の心の中では、まったく違うことが起きているのです。
反対に、心の中で大切にしていることも、行動に移したり、誰かに伝えたりすることで、現実の世界に影響を与えます。
自分の人生を理解するには、外から見える出来事だけでなく、その出来事を自分がどのように感じ、どんな意味を見いだしているのかにも目を向ける必要があります。
自分らしく生きることと、人とつながること
次に、絵の上下に目を向けてみましょう。ここには、人間が持つ二つの大切な方向性が表現されています。
一つは、自分らしく生きようとする力です。自分で考え、自分で選び、自分の可能性を育てていくこと。
もう一つは、誰かとつながり、支え合い、より大きな世界の一員として生きようとする力です。
この二つは、ときに対立するように感じられます。
自分のやりたいことを優先すれば、周囲に迷惑をかけるのではないか。反対に、周囲の期待に応えようとすれば、自分らしさを失ってしまうのではないか。
そんな葛藤を経験したことはないでしょうか。しかし、本当にそうなのでしょうか。
自分の得意なことを生かして、誰かの役に立つこともできます。人との出会いを通して、それまで知らなかった自分の可能性に気づくこともあります。自分らしく生きることと、人とつながることは、必ずしも反対ではありません。
むしろ、自分らしさは人との関係の中で育ち、人とのつながりも、それぞれの人が自分らしくあることで豊かになるのではないでしょうか。
一人ひとりが、もっと大きな世界の一部
この絵をよく見ると、似たような渦巻きや複雑な模様が、あちらこちらに繰り返し現れています。こうした構造は「フラクタル」と呼ばれるものを思わせます。
例えば、木の幹から枝が伸び、その枝から小枝が分かれ、さらに細い枝が広がっていく様子を思い浮かべてください。大きな部分と小さな部分に、よく似た形が繰り返し現れます。
この絵も、上下の渦巻きだけでなく、左右に広がる曲線や無数のつながりを含め、全体がそのような構造を持っています。
私たちの暮らす世界にも、これと似たところがあります。一人の人間は、それだけでかけがえのない存在です。しかし同時に、家族や職場、地域社会といった、より大きな世界の一部でもあります。そして家族や組織もまた、それぞれが一つのまとまりでありながら、もっと大きな社会の一部になっています。
つまり、私たちは独立した一人の人間であると同時に、さまざまなつながりの中に生きているのです。
この絵の無数の線は、そうした関係の広がりも表現しています。
自分が変われば、周囲との関係も変わることがあります。周囲との関係が変われば、自分自身の考え方や生き方が変わることもあります。
人生は、自分一人でつくるものでも、周囲によって一方的に決められるものでもありません。私たちと世界が、互いに影響し合いながら形づくっていくものなのです。
違いを知ることから、一つの世界へ
そして、この絵にはもう一つ、大切なメッセージが込められています。
中央のコンパスは、世界を上下左右に分けています。心の中と外の世界。自分らしく生きることと、人とつながること。
私たちは、物事を理解するために、このように違いを見つけ、区別しようとします。それはとても大切なことです。しかし、絵全体を眺めてみると、どうでしょう。青と赤の世界は、完全に切り離されているわけではなく、上下の渦巻きも、中央からつながっています。無数の線が広がり、交差し、全体として一つの壮大な模様をつくっています。
そこには、興味深い考え方が示されています。私たちは違いを知ることで世界を理解します。しかし、理解が深まると、その違いも実は一つの世界の中でつながっていることに気づくのです。
自分と他人。仕事と人生。個人と社会。こうした区別は、私たちが考えるうえで役立ちますが、現実の人生は、それほどきれいに分けられるものではありません。仕事での経験が家庭での自分を変え、家族との関係が仕事への向き合い方を変えることもあります。誰かの幸せが自分の喜びになり、自分の成長が誰かの可能性を広げることもあります。違いがなくなるのではありません。違いを大切にしながら、それらが一つにつながっていることを理解していくのです。そして、その理解がさらに深まると、そもそも私たちが分けて考えていたものも、初めから一つの世界の中にあったのではないか、という見方が生まれてきます。
この絵は、そんな世界の一体性をも表現しています。
人生は、完成するものではなく、変わり続けるもの
私たちは、ともすると「理想の自分」や「完成された人生」を目指そうとします。
けれども、人生には決まった完成形があるのでしょうか。新しい人と出会えば、新しい自分を発見するかもしれません。思いがけない出来事が、それまで大切にしていた価値観を変えるかもしれません。一度答えを出した問いに、何年か後、まったく違う答えを見つけることもあるでしょう。それは、以前の自分が間違っていたということではありません。
私たち自身が、経験を重ね、世界との関わり方を変えながら、生き続けているということなのです。インテグラルキャリア研究所(ICI)が大切にしているのは、このような人生の捉え方です。
キャリアとは、職業や経歴だけを意味するものではありません。自分自身を知り、他者と出会い、社会と関わりながら、生涯にわたって自分の生き方を形づくっていくことです。そして、その過程では、自分の可能性が広がるだけでなく、自分と世界との関係そのものが変わっていきます。
この一枚の絵は、そんな人生の広がりを表現しています。
私たちは、一人ひとり違う存在です。けれども、決して切り離された存在ではありません。
自分らしく生きることと、誰かとともに生きること。その両方を大切にしながら、さまざまな出会いや経験を通して、私たちは変わり続けています。
この絵を眺めながら、ときには自分自身に問いかけてみてはいかがでしょうか。
「私は、どんなつながりの中で今の自分になったのだろう。そして、これから誰と、どのような世界をつくっていきたいのだろうか。」
その問いから、これまでとは少し違う人生の景色が見えてくるかもしれません。
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