なぜ人と組織は変われないのか : ハーバード流自己変革の理論と実践

ロバート キーガン;リサ・ラスコウ レイヒー;千秋 池村
書籍 | 2013 | 英治出版
ICI AlexandriaVirtual Knowledge Library

ICI解説

ロバート・キーガンらの成人発達理論を背景に、変化を望みながら実現できない状態を「変化を阻む免疫」として説明する理論・実践書。改善目標、阻害行動、競合するコミットメント、強力な固定観念を可視化する「免疫マップ」を用い、個人の自己変革からリーダーシップ、チーム、組織変革までを扱う。

ICIの視点から本書が重要なのは、「変われない」という現象を、本人の意欲や能力の不足としてではなく、その人が現在どのような意味の体系によって自己と世界を構成しているのかという問題として捉え直している点にある。

キャリア支援では、しばしば「何をしたいのか」「次に何をすべきか」「どのようなスキルを身につけるか」が問われる。しかし、本人が必要性を理解し、目標を設定し、具体的な行動まで認識しているにもかかわらず、変化が起こらないことがある。本書の「変化を阻む免疫(Immunity to Change)」は、この状態を単なる抵抗や意志の弱さとは見なさない。表面的な目標とは別に、その人自身を守ってきた暗黙のコミットメントや前提が存在し、それらが一つの整合的なシステムとして現在の行動を成立させていると考える。

この視点は、ICIが提唱する発達志向のキャリア支援と深く重なる。ICIにおいてキャリアとは、職業選択や環境への適応だけではなく、仕事や人生の経験を通して、自己と世界との関係をどのように意味づけ、その意味づけの枠組み自体をどのように更新していくかという発達過程でもある。本書は、その「枠組みの更新」がなぜ容易ではないのかを具体的に理解するための重要な理論的・実践的手がかりを提供する。

とりわけ重要なのは、支援者が「変化させる側」に立たないことである。本人にとって一見不合理に見える行動にも、それまで自己を維持し、何かを守ってきた合理性が存在する可能性がある。したがって支援とは、その前提を外側から否定したり取り除いたりすることではなく、本人がそれまで「主体(Subject)」として埋め込まれていた前提を、次第に「客体(Object)」として捉え直し、検討できるようになる過程に伴走することになる。

この点は、ICIにおけるスーパーヴィジョンやメタ・スーパーヴィジョン(MSV)にも示唆を与える。支援者自身もまた、自らの善意、支援観、成功イメージ、専門職としての自己像などに埋め込まれている可能性があるからである。「なぜ相談者が変わらないのか」だけではなく、「なぜ私はこのように支援しようとするのか」「私は何を守ろうとしているのか」と問い返すことによって、支援者自身の意味形成の構造も省察の対象となる。

ICIにとって本書は、成人発達理論を抽象的な発達段階の理解にとどめず、実際のキャリア支援、専門職の発達、リーダーシップ、組織変革へ接続するための重要な橋渡しとなる文献である。「変える」のではなく、「現在のあり方がどのような意味体系によって成立しているのかを理解し、その前提を本人自身が検証可能にしていく」という発想は、発達志向の支援を実践するうえで重要な視座を提供している。

ICI内での位置づけ

主領域モデル
関連領域理論変容デザイン実践
資料区分重要資料

キーワード

成人発達理論;変化を阻む免疫;免疫マップ;競合するコミットメント;強力な固定観念;適応を要する学習;リーダーシップ開発;組織変革

ICIノート

ICIのG02「成人発達理論」と直接接続し、発達を単なる知識・技能の追加ではなく、意味形成や認識枠組みの変化として捉える際の重要な参照資料となる。支援モデルにおける発達支援、キャリア発達、リーダー育成、組織開発において、本人の意図と実際の行動を妨げる暗黙の前提を探索する枠組みを提供する。また、アセッサー・システムのような対話的・相互学習的実践において、個人やチームの固定観念を検証し、変容を設計するための補助線となり得る。

概要

成人発達理論の研究者ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒーが、個人および組織において、変化の必要性を認識し、変わろうとする意思を持ちながらも変革を実現できない現象を理論的・実践的に論じた著作。原著は Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization(2009年)。

本書は、変革を阻む要因を単純な意志、動機、能力の不足として捉えるのではなく、本人が意識的に掲げている改善目標とは別に、それと拮抗する「裏の目標(competing commitments)」や、その背後にある「強力な固定観念(big assumptions)」が存在することに注目する。これらが一種の自己防衛的なシステムとして働き、本人にとって合理的な行動を取りながらも、結果として望んでいる変化を妨げる状態を「変化を阻む免疫(Immunity to Change)」として説明する。

その構造を可視化するため、本書では「免疫マップ(Immunity Map)」と呼ばれる方法を提示する。改善目標、それに反する行動、競合するコミットメント、強力な固定観念を段階的に明らかにし、固定観念を仮説として検証することで、従来の認識枠組みそのものを変化させる学習プロセスを扱う。

こうした変革を、既存の認識枠組みの内部で知識や技能を追加する「技術的な学習」だけでは達成できない課題として位置づけ、ものの見方や意味形成の枠組みそのものを変化させる「適応を要する学習」の必要性を論じる。その背景には、成人後も人間の意味形成の構造は発達しうるとするキーガンの成人発達理論がある。

個人の自己変革だけでなく、チーム、リーダーシップ、組織変革にも同じ枠組みを適用し、個人および集団が自らの変化を阻んでいる暗黙の前提を発見・検証するための事例と実践方法を提示している。成人発達理論を、自己変容、リーダー育成、組織開発に接続した理論・実践書である。

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