「『インテグラル理論』重版ありがとうございます」を記念して

里美 柏原
Webページ | 2019
ICI AlexandriaVirtual Knowledge Library

ICI解説

本稿は、インテグラル理論そのものを解説する資料というよりも、理論との出会いが一人の実践者の生き方や活動にどのような影響を与え、さらにその理論との距離の取り方がどのように変化していったのかを示す実践的な記録として重要である。

ICIの観点から特に注目されるのは、インテグラル理論という包括的な「見取り図」を得ることと、その見取り図を生きることとの間には大きな隔たりがありうる、という経験が率直に語られている点である。著者は、理論に触れたことで社会や人間の発達・変容への希望を抱き、それを社会活動へ結びつけようとした一方、後に、自らの内面的な実践が十分でないまま理想の実現を外側に求めていたと振り返っている。

これは、ICIがインテグラル理論を完成された答えや規範としてではなく、実践を省察するためのメタ理論として扱う際にも重要な論点である。とりわけ発達段階や変容という概念は、人間の可能性を理解する有力な視座となる反面、「より高く発達すべきである」という規範や、自己・他者を評価する尺度へ転化する危険をもつ。本稿が、発達や変容そのものを追い求めすぎず、日常、自身の感覚、他者との関係、具体的な実践を重視するよう促している点は、こうした理論の規範化への重要な警告として読むことができる。

また本稿は、インテグラル理論を「人を裁くためのもの」ではなく、世界を認識するための見取り図、異なる前提をもつ人々が対話するための共通言語として位置づけている。この理解は、多様な理論や実践知を単一の正解へ還元するのではなく、それぞれの有効性と限界を認識しながら接続していこうとするICIの基本姿勢とも親和性が高い。

したがって本稿は、インテグラル理論の内容を理解するための補助資料にとどまらない。「理論を知ること」「理論を使うこと」「理論を生きること」は同一ではないという問題を、著者自身の経験を通して示す資料として位置づけられる。インテグラル理論を実践へ接続するとき、理論を現実へ適用するだけではなく、現実の経験によって理論との関係そのものを絶えず問い直す必要があることを示唆する資料である。

ICI内での位置づけ

主領域世界観
関連領域理論実践共創
資料区分重要資料

キーワード

インテグラル理論;理論と実践;日常的実践;自己評価・他者評価の回避;対話の共通言語;発達と変容;先生徒;共育・共創

ICIノート

ICIにとって本資料は、インテグラル理論を知識体系として扱うだけでなく、日常の実践、対人関係、社会活動のなかでどのように生かすかを考えるための内省的な参照資料である。とりわけ、理論を用いて人や実践を序列化・裁定しないこと、成熟や変容を性急に追求しないこと、異なる前提を持つ人々を理解するための共通言語として活用することは、ICIの先生徒、共育・共創、対話実践、インテグラルキャリアの多層的な視座と接続し得る。ICI内部Knowledgeに見られる「理論ではなく生き様」への関心や、理論を教育・組織・地域の実践へ橋渡しする方向性を補強する資料でもある。

概要

柏原里美が、ケン・ウィルバー『インテグラル理論』の刊行と重版を契機に、自身とインテグラル理論との関わりを振り返ったエッセイ。大学時代に岡野守也の授業を通じてウィルバーの思想と出会い、インテグラル理論を社会活動へ応用しようとした経験、その過程で生じた理想と現実の乖離、活動から距離を置いて実践を重視するようになった経緯、さらにビジネス書編集者として再びインテグラル理論に関わり、2019年刊行の『インテグラル理論』の編集に至った経緯を記している。

後半では、自身の経験を踏まえ、インテグラル理論を実践に用いる際の留意点を提示する。理論のみを先行させず日常的な実践を重視すること、「あるべき姿」よりも自身の感覚に注意を向けること、発達や変容を過度に追求しないことなどを挙げ、インテグラル理論を自己や他者を評価・裁定するためではなく、世界を認識するための見取り図、および異なる前提をもつ人々との対話のための共通言語として用いることを提案している。

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