成人発達理論による能力の成長 : ダイナミックスキル理論の実践的活用法

洋平 加藤
書籍 | 2017 | 日本能率協会マネジメントセンター
ICI AlexandriaVirtual Knowledge Library

ICI解説

成人発達理論と知性発達科学をもとに、成人の能力を固定的な特性ではなく、環境・課題・支援との相互作用によって変動し発達する動的なプロセスとして捉える。カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を中心に、機能レベル、最適レベル、発達範囲、サブ能力、分化と統合などの概念を整理し、マインドフルネス、リフレクション、システム思考、人材育成への応用を論じる。

ICIの視点から本書が重要なのは、成人の「発達」を人格や意味形成の高度化だけに還元せず、具体的な能力が環境や課題との相互作用のなかでどのように形成され、変動し、成長するのかを捉える視点を提供している点にある。

ICIでは、知識や技能を蓄積する水平的成長と、自己や世界を見る枠組みそのものが変化する垂直的成長を区別しながら、その双方を統合的に捉えることを重視している。その観点から見ると、カート・フィッシャーのダイナミックスキル理論を中心に据えた本書は、成人発達を垂直的な段階論だけで理解することへの重要な補完となる。

とりわけ注目すべきなのは、「その人の能力はどのレベルか」という固定的な評価ではなく、「どのような課題、環境、支援条件のもとで、どの程度の能力が発揮されるのか」と問う点である。人間の能力は常に一定ではなく、文脈や課題の複雑性、他者からの支援などによって大きく変動する。この視点を採用すると、ある場面で十分な力を発揮できなかったことを、その人自身の固定的な能力不足と同一視することはできなくなる。

これはキャリア支援にとって重要な意味を持つ。支援の対象を「不足している能力を補うこと」だけに限定するのではなく、その人がすでに潜在的に持っている能力が、どのような条件で発揮され、どのような足場かけによって次の発達へ向かいうるのかを検討することが可能になるからである。個人だけを変化の対象とするのではなく、関係性、職場環境、課題設定、支援方法を含むシステム全体を視野に入れる必要性もここから導かれる。

この視点は、ICIが行うスーパーヴィジョンやMSVにおいても重要である。例えば、あるキャリアコンサルタントが一つの面談で適切な問いを発することができなかったとしても、それだけから「問いを立てる能力が低い」と評価することはできない。どの局面で能力が低下したのか、どのような心理的・関係的条件が影響したのか、スーパーバイザーからどの程度の支援があれば異なる理解や介入が可能になるのかを検討することで、評価から発達支援へと視点を移すことができる。

さらに本書は、「人間としての発達」と「特定領域における能力の発達」を安易に同一視しないためにも重要である。意味形成の構造が複雑であることと、特定の専門的実践に熟達していることは同じではない。逆に、特定領域で高度な技能を持つことが、そのまま自己や他者を複雑に捉える発達的成熟を意味するわけでもない。この区別は、成人発達理論を能力評価や人物評価へ短絡的に利用することを避けるうえでも重要である。

ICIにとって本書は、成人発達を「高い・低い」という静的な尺度として扱うのではなく、人と環境との相互作用のなかで生起する動的な発達過程として理解するための重要文献である。キャリア支援者の役割もまた、相手を一方向に成長させることではなく、その人の能力が現れ、試され、統合されていくための適切な関係と環境をともに形成することとして捉え直すことができる。

ICI内での位置づけ

主領域理論
関連領域モデル実践変容デザイン
資料区分重要資料

キーワード

成人発達理論;ダイナミックスキル理論;知性発達科学;発達範囲;分化と統合;能力開発;リフレクション;システム思考

ICIノート

ICIが掲げる「人は成長し続ける存在」「理論と実践の融合」という理念に対し、本書は能力発達を固定的な尺度ではなく、環境・課題・支援によって変化するプロセスとして理解する理論的基盤を提供する。特に、通常の機能レベルと支援によって発揮可能な最適レベルを区別する視点は、ICIのR指標や対人支援スキルの発達評価を検討する際に、能力評価を静的な序列化にしないための補助線となり得る。また、複数のサブ能力の分化と統合という見方は、4ライン10レベルマッピングモデルにおける支援スキルの多次元的成長や、研修・スーパーヴィジョン設計との接続可能性を示す。ただし、本書の理論とICI独自モデルの対応関係は、本文および実践データに基づく追加検討が必要である。

概要

成人発達理論および知性発達科学の知見をもとに、成人の能力がどのようなプロセスとメカニズムによって発達するのかを解説した著作。特に発達心理学者カート・フィッシャー(Kurt W. Fischer)のダイナミックスキル理論(Dynamic Skill Theory)を中心に、成人の能力発達を固定的な能力観ではなく、個人と環境・課題との相互作用によって変動しながら形成される動的なプロセスとして捉える。

本書では、能力には環境依存性・課題依存性・変動性があり、同一人物であっても置かれた状況や利用可能な支援によって発揮される能力水準が異なることを説明する。その際、通常の条件で発揮される「機能レベル」と、適切な支援や環境が与えられた際に発揮可能な「最適レベル」、両者の間に形成される「発達範囲」などの概念を用い、能力を単一の固定値として評価する見方とは異なる発達観を提示する。

また、複雑な能力が複数の下位能力(サブ能力)によって構成され、それらが分化と統合を繰り返しながら発達していく過程を、能力階層や成長法則などの概念を用いて説明する。これにより、現在の能力水準を把握するだけでなく、能力がどのような条件のもとで次の段階へ成長しうるのかを検討する枠組みを提示している。

後半では、こうした発達理論を実際の能力開発に応用し、従来型の能力開発が抱える問題を検討するとともに、マインドフルネス、リフレクション、システム思考などの実践と発達理論との関係を論じる。

成人の能力を静的な特性としてではなく、環境や課題との相互作用のなかで変動・発達する動的なシステムとして理解し、知性発達科学の理論を自己成長、人材育成、能力開発の実践へ接続することを目的とした理論・実践書である。

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