これからの相談業務
―― ICIが見ている少し先の社会 ――

いま、社会で起きていること
ここ数年、人とテクノロジーの関係は、ある日を境に大きく変わったというよりも、気づけば元には戻れないところまで、静かに進んできた、という言い方のほうがしっくりくるように感じます。
AIは、もはや特別な技術でも、限られた人だけが扱うものでもなくなりました。「アプリの時代が終わる」という言葉が聞かれるようになったのも、象徴的な変化のひとつでしょう。
調べること、予約すること、問い合わせること、そして誰かに相談すること――こうした行為は、これからはAIが介在することを前提に、自然と組み替えられていくのかもしれません。
どのサービスを開くか、どの画面を操作するか、どのボタンを押すか。そうしたことをいちいち考えなくてもよくなり、代わりに「こうしたい」「困っている」「どうすればいいんだろう」といった、意図そのものを伝える場面が増えていきそうです。
AIは、その意図を受け取り、裏側でいくつもの情報や手続きをまとめあげ、人の前には「ある程度整った形」だけを差し出すようになります。人は、そのプロセスを意識することなく、結果や選択肢と向き合うことになります。
こうした流れのなかで、仕事、問い合わせ、相談、支援といった領域は、これまでのようにきれいに線を引くことが難しくなってきています。質問の中には感情が混ざり、合理的な要望の裏には不安があり、手続きを求める声の奥には人生そのものへの迷いが潜んでいる。それらは最初から混ざった状態で、入口に現れます。
社会はいま、さまざまな関わりの入口が、少しずつ一つに集約されていく段階にあるように見えます。
そして、その入口に立ち始めている存在が、AIなのだと思います。
その先に起こる変化を、ICIの視点で
この先、相談支援やカウンセリングの世界も、こうした変化の影響を受けずにいることはできないでしょう。
ただ、これを悲観的に捉えているわけではありません。むしろ、人が人と向き合う営みが、少し遠回りをしながらも、本質的な統合的発展途上なのではないか、と感じています。
これからの相談の入口では、AIがまず話を聞く存在になると思われます。それは効率を上げるためでも、人の仕事を奪うためでもなく、入口に集まる混線した声を、いったん受け止めて整理するためです。
それがFAQなのか、ちょっとした迷いなのか、人生に関わる問いなのか。入口では、無理に分ける必要はありません。
まずは、語ってもらう。そして、少しずつ整理していく。
ICIが思い描いているのは、たとえばこんな光景です。
SNSカウンセラーは、常にAIとしてインタープレイスに在り、24時間、誰からの声も受け付けています。深夜でも、通勤途中でも、自宅でも、外出先でも。スマホのようなデバイスさえあれば、いつでも、どこからでも、言葉を置くことができる。
しかし、AIは、その場で答えを出そうとはしません。相談内容の温度や文脈を読み取り、「この人には、どんな関わりが必要か」を静かに伴走しつつ、見極めていきます。
そして、必要だと判断されたとき、その相談は、適切な専門性を持つ人へと、丁寧にマッチングされ、アテンドされる。急に放り出されることもなければ、「こちらへどうぞ」と突き放されることもありません。
AIは、入口から人の手へと、相談が自然に受け渡される流れをつくる役割を担います。
そこにあるのは、常時接続され、遍在する――パーベイシブな相談環境です。
AIの役割は、答えを出すことではなく、人が関わるための準備を整えることにあります。どこまでならAIが支えられるのか、どこから先は人の判断や関係性が必要になるのか。その見極めを、入口で静かに行っていく。
そうすることで、本当に人が向き合うべき相談が、人のもとに届くようになります。数を減らすというより、質を澄ませていくような変化です。そのとき、人間の専門性は、これまで以上にはっきりと見えてくるでしょう。
- 倫理と責任を引き受けること
- 関係性のなかで判断すること
- 答えのない問いを、すぐに結論を出さず、一緒に抱え続けること
それらは、どうしても効率化も自動化もできません。
だからこそ、人が担う意味があり、そこにプロフェッショナルとしての役割が残ります。ICIが見ている未来は、AIに置き換えられた社会ではありません。
入口はAI、深まりは人。
AIによって、人間が「人間にしかできない場所」へ、もう一度還っていきましょう。ICIは、その未来がやってくるのを待つのではなく、最初からその前提に立って、場をつくり、関係を育てていこうとしています。


