コロナ禍を経て変わる大学生就職環境
──“安定”を再定義する

コロナ禍をきっかけに、大学生の就職環境は静かに、でも確実に変わってきましたね。

いま、社会人になっている若い世代の方は、突然の緊急事態宣言で説明会や面接が一気にオンライン化され、先輩から聴いていた就活の「当たり前」が通用しなくなった恐怖を、今も覚えているのではないでしょうか。

2020〜2021年頃、一時的に就職率や内定率は落ち込みました。観光・レジャー産業が大打撃を受け、志望業界も大きく揺れました。しかしその後、景気と人手不足の波が重なり、就職率は回復どころか過去最高水準となっています

2024年春卒では就職率98.1%、内定率は92.6%と、数字だけを見れば“黄金期”と呼んでもいい状況です。求人倍率もおよそ4倍に達し、バブル期を超える水準となっています。

大学の種別や地域による格差も縮まりつつあり、難関大学だけでなく中堅・地方大学でも就職率は軒並み高水準。背景には、オンライン化によって地理的なハンデが薄まったこと、そして多くの大学がキャリア支援を急速にデジタル対応したことがあげられます。

人気業界の風景が一変しました

コロナ禍以前、JTBやH.I.S.、オリエンタルランドといった旅行・レジャー系企業が学生人気の上位を独占していました。それがコロナ直後、食品・生活必需品業界が台頭し、2021年以降は出版社・ゲーム・IT・通信・インフラといった「生活基盤」や「デジタル技術」に関わる企業に人気が集まるという流れになっています。

つまり「華やかな非日常」よりも、「変化に強く、日常を支える業界」へと関心が移ってきました

通信業界や電力・ガスといった公共性の高い業種への志望者も増えている他、出版社やゲーム企業、インフラ企業が人気ランキングの上位を占める光景は、コロナ以前には想像しにくいものでした。

「オンライン×対面」のハイブリッド就活も当たり前になりました

コロナ禍によって、就活のスタイルも劇的に変わりました。

一次や中間面接はオンライン、最終面接は対面。いまでは多くの企業がこの“ハイブリッド型”を採用しています。オンラインで全国どこからでもエントリーできるようになった一方で、最後は「やっぱり直接会って判断したい」という企業も学生も多い。合理性と人間味が混ざり合った、不思議な就活スタイルが定着しました

インターンシップの早期化が進み、大学2〜3年の段階で複数社を経験する学生が多数派となっています。

特に難関大学の学生は、3〜5社のインターンに参加するケースも珍しくありません。地方大学の学生でも、東京の企業のインターンに気軽に参加できるようになり、地理的な壁が薄れたという点は大きな変化です。

安定志向は“逃げ”ではなく“再定義”

コロナ世代の若い人たちは、社会の不確実性を身をもって体験して、「安定」を重視するのは自然なことです。ただし、その“安定”の意味は一様ではありません。

ある学生にとっては「長く続いている企業」であり、別の学生にとっては「柔軟に働ける環境」だったり、「専門スキルで食べていける自信」だったりします。

この「安定の再定義」こそ、支援者や企業側が丁寧に向き合うべきポイントです。単なる「堅い会社志向」と一括りにしてしまうと、学生の本音は見えてきません。

学生・企業・支援者、それぞれに問われる“複線化”

いまの学生は、一社に絞るよりも複数社の内定を得た上で、自分に合った道を探る傾向が強くなっており、企業は、柔軟な選考設計と内定後のコミュニケーションを工夫しなければ、優秀な人材を確保しにくくなりました

一方、支援者(キャリアコンサルタント・HR・大学のキャリアセンターなど)は、従来の「就職先を一緒に決める」支援から、「複数の可能性を保持したままナラティヴに伴走する」支援への転換が求められています。複線化するキャリア観を前提に、学生自身の“安定”と“成長”のバランスを一緒に探る対話が、これからの就職支援の核心になるでしょう

ICIからの提言──三者で未来を編むために

コロナ禍以降の就職環境の変化は、単なる数字や形式の変化ではありません。学生、企業、そして支援者──この三者がそれぞれの立場を少しずつアップデートし、未来のキャリア観そのものを編み直す必要があります。

1. 学生へ:自分の「安定」を定義し、複線を恐れない

これからの社会では、「一社に入れば安泰」という時代は終わっています。だからこそ、自分がどんな環境を「安定」と感じるのか──それを早い段階で言語化することが、就活の本当のスタートです。

企業の寿命や規模だけでなく、働き方・人間関係・裁量・専門性の伸びしろなど、自分にとっての安定軸を見つけましょう

また、「複数の内定を持つこと=迷い」ではなく、「複数の選択肢を並べて、自分の価値観と対話する機会」と捉えること

インターンや選考を“テスト受験”ではなく、“社会との対話の場”とする視点が、キャリアのブループリントを大きく変えます。

2. 企業へ:柔軟さと持続性を、丁寧に“見える化”する

学生は、企業の本質を非常によく見ています。「成長性」や「理念」だけではなく、実際の働き方や制度、経営基盤の強さなど、“揺るがない部分”と“しなやかに変われる部分”の両方に注目しています。

この時代、採用広報は単なる“アピール”ではなく、信頼構築のストーリーです。オンライン説明会やSNS、社員の語りなど、伝えるチャンネルは増えました。大切なのは、「この会社と一緒に未来を描けそうだ」と学生に感じてもらえる一貫したメッセージと人の顔です

3. 支援者へ:内的探求と複線編集の伴走者として

支援者には、かつてないほど高度な対話力が求められています。オンライン・対面が交錯する時代、学生の表情や語りの奥にある「まだ言葉になっていない不安・価値・可能性」を丁寧にすくい上げる力が、支援の質を決めます。

特に、安定志向を「逃げ」と決めつけず、その奥にある安全・信頼・自己決定感への欲求を共鳴的に受け止めること。そして、その価値をベースに、複数の選択肢を一緒に編集するナラティヴ的支援

これはまさに、ICIが重視している「共感10段階モデルの共鳴共感〜アンメット共感レベル」の対話が求められます。

おわりに

コロナ禍は、就職活動を「社会との接続テスト」から、「価値観と未来を問うプロセス」へと変えました

学生が安定を再定義し、企業が柔軟性と持続性を見せ、支援者が複線的なキャリアを共に編む──この三者がそれぞれの役割を少しずつ更新していくことが、未来のキャリア社会をつくる礎になります。

ICIは、その“編み手”の一員として、引き続き実践と知見を発信し続けていきますね。

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