BtoCtoH
〜人と人がつながる共感が資本になる時代〜

インテグラルキャリア研究所(ICI)では、先月、「MirAI プロジェクト」をキックオフして、新しい社会の、新しいコミュニケーションについて模索を始めました。「共感の10段階モデル」や「4ライン10レベルマッピングモデル」、「キャリア・モデリング・メソッド(MBCA)」など、人と人が共に学び合い、信頼を築くための実践にチャレンジしています。その根底には、VUCAと呼ばれる時代に応じて「人間のつながりのあり方」を問い直す思いがあります。

価値資本から意味資本へ

かつて経済の主役は大企業同士の取引にありました。いわゆる BtoB(Business to Business) です。規模の経済がものを言い、サプライチェーンの強さが企業価値を決める時代ですが、グローバル化と流通の業態やネットワークの多様化が進むにつれ、競争が熾烈となり、限界が見えてきました。

その後、企業は消費者に直接語りかける、BtoC(Business to Consumer)が注目され、ブランド体験やユーザー体験を大切にするようになりました。いわゆる「顧客志向」の時代です。しかし、ここでもモノやサービスがコモディティ化することで、顧客を獲得するコストがどんどん膨らんでいます。

21世紀に入って大きく伸びているのが CtoC(Consumer to Consumer)です。メルカリやAirbnbのように、消費者同士が直接価値を交換する仕組みが広がり、個別プラットフォーム経済の時代が到来しました。個人の持つ資産やスキルが市場で流通し、企業だけではなく「個人のつながり」が市場を動かす力を持ち始めています。

そしてこれからは、HtoH(Human to Human)の時代がやってくると考えられます。ここでいうHは「Human」、つまり人間です。もはや顧客は「消費者」というカテゴリーに収まらず、一人ひとりが物語や背景を持った存在です。そこでは「取引」よりも「関係性」、「体験」よりも「共感」や「信頼」つまり、「どういう意味を持つか」、が価値の中心になります。

なぜ今HtoHが求められているのか

リモートワークやSNSが当たり前になった社会では、一見「つながって」いるように見えるだけでその繋がりはフィルターを通したバブルの中での反響に過ぎません。画面越しのやりとりに疲れ、誤解やすれ違いも増え、人と人が直接会って交わす表情や仕草、空気感といった非言語の要素が失われることで、「本当に自分は理解されているのか」という不安を抱く人は少なくありません。

だからこそ今、単なる情報伝達や効率的な取引を超えて、「心からの理解」や「信頼できる関係性」を再び基盤に、意味を考える必要があります。HtoHとは、デジタル化によって希薄化したつながりを取り戻し、人間らしい関係性を再構築する営みといえるでしょう。

信頼の資本価値

この時代において、一人ひとりの価値はどこに宿るのでしょうか。それがコミュニケーションの力だと思います。単に情報を伝える力ではなく、相手を理解し、共感し、ともに新しい意味をつくり出す力です。言い換えれば、人と人とのあいだに信頼を築き、響き合う力こそがHtoH時代の「市場価値」そのものになるのです。

対人支援を行う専門家として、ここで見逃してはならないのは、従来のカウンセリングやキャリアコンサルティングが、このような価値意識や視点にあまりにも無関心であったことです。

支援の専門性は「よいことをしている」という倫理的正しさに根拠を置いてきましたが、それを社会の中でどのように価値へと転換し、持続可能な仕組みにしていくかについては十分に考えられてきませんでした。そのため、支援は善意や使命感に依存する領域にとどまりがちで、結果的に評価や報酬の面で脆弱性を抱えてきたのです。

そこでICIでは、信頼報酬や感情報酬という考え方を支持しています。信頼報酬とは、目先の成果や取引ではなく、長期的な関係性や信頼そのものを報酬とみなす考え方です。感情報酬とは、共感や感情的なつながりを価値と認識し、それを社会に流通させる視点です。これらは、HtoH時代に必要な「新しい通貨」であり、従来の対人支援が抱えていた弱点を補うものだといえます。

これからの時代、経済はBtoBからBtoC、そしてCtoCを経て、確実にHtoHへとシフトしていくと考えられますが、ここで求められるのはモノや資本ではなく、人と人とが響き合う力です。その基盤となるのがコミュニケーションに関わる力であり、それを社会的価値として育て、循環させなければなりません。

HtoH時代において、共感は資本となり、信頼は報酬となり得ます。私たちはその未来に向けて、人と人とのつながりを大切にし、共に新しい社会をつくっていきたいと考えています。

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